業務上、日本語⇔スペイン語の通訳を行う機会が多々あります。
共通点のない言語に文化的背景の違い、加えて日本人は曖昧で間接的な表現を好んで使用することから、どのように通訳すべきなのか毎回悩まされています。
今回はそんな通訳泣かせの表現の代表格である、「よろしく」という言葉に注目してみました。
シーン別に分けて、それぞれ《例文》《意味》《スペイン語訳》《スペイン語解説》《通訳メモ》の項目順にお話ししたいと思います。
挨拶として
最も一般的な使い方は挨拶です。
《例文》
はじめまして。どうぞよろしくお願いします。
《意味》
初対面の人と挨拶する時に使うお決まりの表現。
《スペイン語訳》
Mucho gusto. (ムーチョ・グスト)
《スペイン語解説》
Muchoは「沢山」、gustoは「喜び」という意味。
初対面の人との挨拶で用いるスペイン語の常套句なのでそのまま覚えればOKです。
《通訳メモ》
日本語の「はじめまして」も「よろしく」も直訳できるようなスペイン語はないため、スペイン語の挨拶で良く使われる表現を当てはめています。
この他にスペイン語教科書に必ず出てくるのはEncantado/a. (エンカンタード/ア)ですが、メキシコではあまり使われません。
感謝の気持ちを伝える
取引先との会議ともなると、「よろしく」のカオスです。
よく聞くフレーズがコチラです。
《例文》
本日はどうぞよろしくお願いします。
《意味》
進行担当による会議の冒頭での発言。
《スペイン語》
Gracias por su tiempo hoy.(グラシアス・ポル・ス・ティエンポ・オイ)
《スペイン語解説》
Graciasは「ありがとう」、por su tiempoは「あなたの時間を」、hoyは「今日」。
つまりは、「今日はお時間をいただきありがとうございます」という意味になります。
《通訳メモ》
スペイン語での言い方は色々ありますが、言いやすい一例を選びました。
日本語では曖昧表現や謝ることばを良く使いますが、スペイン語圏では真逆で主語述語がハッキリしており謝る代わりに感謝を述べる傾向が強いです。
指示やお願いをする時
《例文》
じゃ、それよろしくね。
《意味》
上司から部下へ、ある仕事をするように指示しているシーン。
やるべきことの内容を言い終えた後のひとことです。
《スペイン語訳》
Te lo encargo. (テ・ロ・エンカルゴ)
《スペイン語解説》
encargarは「任せる」という意味。
Teは「君に」、loは「それ(任せられた仕事のこと)」
より強調したい時には、Te lo encargo mucho. などと言ったりします。
《通訳メモ》
実際の通訳現場にて、
「まあ、その辺は君に任せるから適当によろしくやってよ」
といわれてTe lo encargo mucho.と訳したこともあります。
ビジネスシーンらしからぬ乱暴なセリフですが、日本人間では割と良く使われるフレーズです。
(こっちがわざわざ指示しなくても、やるべきこと分かるでしょ?)
・・・という話し手の気持ちを感じ取るものですが、倫理的な部分でとても直訳できないのでここは「任せる」ということばだけ切り取ります。
このビジネスシーンでの指示やお願いの仕方については別の記事にて詳しく書いています。興味のある方は読んでみて下さい。
*関連記事*
今までの継続の確認として
《日本語例文》
今後ともよろしくお願いします。
《意味》
これからも連絡を取り合って、良い取引関係を継続していきましょう。
というニュアンスが込められています。
《スペイン語訳》
Estamos en contacto.(エスタモス・エン・コンタクト)
《スペイン語解説》
Estamosは状態を表す動詞、en contactoは「連絡をとる」。
類似表現として、Seguimos en contacto.も良く使います。
《通訳メモ》
ここでの「よろしく」に込められた意味を全て訳すとしたら、
Estamos seguros que va a ser una relación próspera para ambos. 「お互い良い関係を築いていきましょう。」
みたいな長~い分になってしまうので、ここは要所のみ切り取りました。
気遣いとして
《日本語例文》
〇〇さんへよろしくお伝えください。
《意味》
その場にいない人に対して気遣う時のひとこと。
今回はお会いできず残念ですが、次回お会いできるのを楽しみにしています、と言いたいのを「よろしく」の4文字にまとめています。
《スペイン語訳》
Salude a 〇〇 de mi parte. (サルーデ・ア・〇〇・デ・ミ・パルテ)
《スペイン語解説》
Saludar a は「~へ挨拶する」、de mi parteは「私から」という意味。
《通訳メモ》
こちらは日本語・スペイン語共に決まり文句で使われるタイミングも同じなので迷いなく通訳できるところです。
それにしても、非日本語圏の方々が悩まれそうな分かりにくい日本語だなと思います。
「よろしく」って、何をよろしくなの?と思うのでは・・・
メールの結び
最後に、翻訳の一例にも触れたいと思います。
《日本語例文》
よろしくお願いします。
《意味》
メール文末に結びとして入れる一文。
《スペイン語訳》
Saludos. (サルードス)
Saludos cordiales. (サルードス・コルディアレス)
《スペイン語解説》
スペイン語メールで結びとして添えるフレーズ。
saludosは「挨拶」、cordialesは「心からの」
cordialesを付けるとより改まった言い方となります。
因みにこのフレーズはほぼ毎回使用するため、あらかじめメールの署名欄に登録しているメキシコ人が多いです。
《翻訳メモ》
お決まりフレーズなので特に苦労なく翻訳できると思いきや、
「お忙しいところ大変お手数おかけして申し訳ございませんが、何卒よろしくお願いいたします。」
といった表現に出会うことが良くあります。
というか筆者も日本人宛てのメールで良く使います。
「お手数ですが・・・」「申し訳ありませんが・・・」の様な言い方をメキシコではしないので、翻訳時には悩みます。
直訳することも可能ですが、現地で良く使われるフレーズとして、
Gracias de antemano por su ayuda. 「ご協力に感謝します」と翻訳しています。
おわりに
筆者の場合は、意味に加えて気持ちが伝わる訳を心がけており、その結果意訳となってしまうケースが多々あります。
プロの通訳ですと失格なのかもしれませんが、日本とメキシコの文化の違いを埋めることも通訳の仕事だと思って日々もがいています。
スペイン語と接する機会があれば是非活用していただけると幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。